AWS OpsMate Pro開発記録の本編は、今回で最終回です。最後に、第1回で感じた問題意識へ立ち返り、OpsMate Proで目指したかった「本当の標準化」とは何だったのかを、現在地とあわせてまとめます。

もう一度、最初の問いへ

第1回で書いたのは、「できない人」と呼ばれる状態の多くは、その課題の常識を知らないだけかもしれない、という違和感でした。出身分野が違えば、最初に見る場所も、危険だと感じる設定も、証跡として残すものも違う。それを知らないだけなのに、能力の差として扱われてしまう。

このシリーズは、その違和感への、自分なりの答えを形にする過程でした。標準化とは、全員を同じ人材にそろえることではない。私はそう考えています。得意分野の違いを削って全員を均一にするのは、標準化というより、むしろ強みを潰す方向だと思うからです。

目指したのは、もっと控えめなことです。その課題に必要な確認観点へ、誰が担当しても、たどり着ける状態を作る。得意分野の違いはそのままでいい。ただ、その課題で最低限たどるべき道筋だけは、誰の頭の中にも同じように現れてほしい。それが、このシリーズを通しての「本当の標準化」の意味でした。人をそろえるのではなく、課題の見せ方をそろえる、という一点に尽きます。

ここまでに作れたもの

その考えを、実際にどこまで形にできたか。振り返ると、次のようになります。

  • 課題を、人ではなくCaseとStepという共通モデルで持てるようにした。
  • 左に全体と現在地、中央に手順と判断、右に補助を置く3カラムUIを作った。
  • 目的・背景・確認値・正常例・異常例を、課題データの側に持たせた。
  • 証跡と完了条件を、仕組みで守るようにした。
  • 進捗をlocalStorageに保存し、再読み込みで復元できるようにした。
  • AIの役割を、確認観点の補助に絞る方針を、ローカル補助として先に組み込んだ。

そして、障害切り分け・権限設計・環境棚卸しという性質の違う3課題を、同じ器の上で最初から最後まで完走できるところまで持ってきました。人ではなく課題へフォーカスする、という最初の方針は、ひとまず動く形にはなったと思います。頭の中の考えが、触って確かめられるものになった、というのが率直な実感です。

まだできていないこと

一方で、できていないことのほうが、まだ多いのも事実です。最終回だからといって、完成したように書くのは正直ではないので、はっきり並べておきます。

  • 実AI接続: 補助はローカルのルールだけで、外部のAIにはつないでいません。
  • BYOK: 利用者が自分のAPIキーを持ち込む仕組みは、設計の方針を書いた段階です。
  • 認証: 利用者を識別する仕組みはありません。
  • AWS実環境接続: 実環境の読み取りや変更は行いません。すべて確認・判断・記録にとどまります。
  • 3課題横断のE2E: 一覧から各課題を完走して戻る、という一連の流れを自動で固定するテストは、まだ入れていません。

これらは、いずれも「これから」の項目です。とくにAIと実環境接続は、安全に扱うほど設計の手間がかかるところで、急いで見た目だけつなぐことはしたくない、と考えています。第10回で書いたように、AIの担当範囲と、外へ渡す文脈をきちんと絞ってからでないと、つなぐ意味が薄いからです。

どこへ広げられそうか

もう一つ、このシリーズを通して見えてきたのは、この考え方はAWSに限らないかもしれない、ということです。

「課題側に確認観点を持たせて、誰でもたどり着けるようにする」という発想は、対象を選びません。サーバーの調査、ネットワークの確認、あるいはAzureやMicrosoft 365、情報セキュリティの運用。確認観点と判断基準が暗黙知になりやすい領域なら、同じ器が使えるはずです。第11回で3課題を同じモデルに載せられたことは、この「対象を選ばない」という感触の、小さな裏づけにもなりました。

もちろん、これは今のところ構想にすぎません。3課題を載せられたからといって、他の領域でうまくいく保証はどこにもありません。領域が変われば、暗黙知の質も、証跡の残し方も変わります。ただ、共通モデルがAWSの3課題で再現性を示せたことは、その先を考える小さな足がかりにはなりました。

人を評価する前に、課題の見せ方を整える

最後に、このシリーズで一番伝えたかったことを書きます。

誰かを「できる/できない」と評価する前に、その課題の見せ方を整えられないか、という問いです。確認観点がどこにも書かれていないまま「なぜ気づかないのか」と問うのは、少しフェアではない気がします。観点が課題の側に並んでいて、それでもたどれないなら、そこで初めて別の話になる。順番として、まず課題の見せ方を整えるほうが先ではないか。そう思いながら作ってきました。

このツールが、その順番を少しでも実感できる形になっていれば、作った意味はあったと思います。少なくとも自分は、作りながら「見せ方を変えるだけで、こんなに迷いが減るのか」と何度か感じました。

現在地としてのまとめ

このツールは、完成した製品ではありません。今できているのは、性質の違う3課題を、同じ共通UIで最初から最後まで動かせるプロトタイプまで、というところです。データの中身にも、仕組みにも、まだ詰めきれていない部分がたくさんあります。手動での画面確認や、実AI接続、他領域への展開など、宿題も残ったままです。

それでも、第1回で立てた「人ではなく課題を見る」という問いを、動く形で確かめられたのは、個人開発としては十分に手応えのある地点でした。ここから先、実AI接続や他領域への展開に進むかどうかは、これからの自分次第です。無理に急がず、必要だと感じたときに、また一歩ずつ足していくつもりです。

全12回の本編におつきあいいただき、ありがとうございました。標準化という言葉を、人をそろえることではなく、課題の見せ方を整えることとして捉え直す。その一つの試みとして、この記録が何かの参考になればうれしいです。